●1972年6月 問題発生後、可塑剤工業会では直ちに技術委員会を招集しました。5月に可塑剤工業会会長に就任したばかりの榎本徹次〈三菱瓦斯化学(株)専務取締役〉陣頭指揮のもとで対応方針を検討し、まず、現状を把握するため、それまでに収集した資料、文献等を再調査しました。
それまでに判明していた安全性に関する情報と、自主規制を含めた使用状況を考え合わせ、通常の使用においてフタル酸エステルの安全性には問題はないとする初期段階での統一見解をまとめました。
●1972年7月
しかし、環境への影響の点で、フタル酸エステルは環境中で分解するのかどうかという微生物分解性のデータが不十分であったため、たくさんの種類のフタル酸エステルについて試験を開始しました。試験は専門機関である環境技術研究所に委託し、同年7月から翌年3月にかけて行われました。その結果(右表)、フタル酸エステルは微生物によって速やかに分解されることがわかり、少なくとも難分解性の環境汚染物質ではないことが明らかになりました。
●1972年8月
連携して問題解決に当たっている塩ビ食品衛生協議会には、工業会の会員各社から分析委員が出向いて活動していました。当時、微量のフタル酸エステルの分析法が確立されておらず、環境問題の焦点として分析の重要度が増してきたため、工業会内にも分析委員会を設置して検討を開始しました。
また、この時期に国立衛生試験所を中心とする厚生省(現・厚生労働省)のフタル酸エステル研究班が発足し、可塑剤工業会では技術委員会が資料、文献を提供するなど、積極的な協力を始めました。 |
|
| ■可塑剤の微生物分解性 |
| ◎微生物によって分解されるかどうかを、船橋市下水処理場の活性汚泥を使い、JISに定められた生分解性試験の方法(K-3363)に則った試験で調べた。 |
| 品目 |
初濃度
(ppm) |
分解率(%) |
| 7日 |
8日 |
14日 |
| DMP |
10.0 |
100 |
100 |
- |
| DBP |
10.0 |
100 |
100 |
- |
| 97 |
100 |
- |
| DHP |
8.8 |
100 |
100 |
- |
| 710P |
7.5 |
100 |
100 |
- |
| 610P |
8.4 |
100 |
100 |
- |
| DEHP |
9.3 |
96 |
99 |
- |
| 100 |
100 |
- |
| DNP |
7.3 |
38 |
62 |
78 |
| 58 |
64 |
- |
| DIDP |
7.9 |
52 |
70 |
- |
| 54 |
68 |
68 |
| DUP |
8.6 |
90 |
93 |
- |
| - |
85 |
89 |
| DTDP |
7.6 |
53 |
53 |
- |
| - |
36 |
40 |
| BBP |
9.7 |
100 |
100 |
- |
| BPBG |
9.2 |
99 |
99 |
- |
| 100 |
100 |
- |
| TOTM |
9.5 |
39 |
45 |
- |
| DOA |
8.6 |
82 |
100 |
- |
| DIDA |
8.4 |
100 |
100 |
- |
| TCP |
8.8 |
100 |
100 |
- |
| 2-エチルヘキサノール |
|
95 |
100 |
- |
| フタル酸 |
|
100 |
100 |
- |
|
| (環境技術研究所1973年) |
| DHP |
: |
フタル酸ジヘプチル |
| 710P |
: |
フタル酸混基エステルC7-C10 |
| 610P |
: |
フタル酸混基エステルC6-C10 |
| DNP |
: |
フタル酸ジノニル |
| DIDP |
: |
フタル酸ジイソデシル |
| DUP |
: |
フタル酸ジウンデシル |
| DTDP |
: |
フタル酸ジトリデシル |
| TOTM |
: |
トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル |
|
●1972年9月
国立衛生試験所、塩ビ食品衛生協議会と共同で、食品への溶出・移行に関する厚生科学研究をスタートしました。その結果、油脂に対しては溶出・移行が見られたため、軟質塩ビは油脂の包装には好ましくないが、水や酸性水溶液などへの溶出は極めて少ないことが確認されました11)。
●1973年2月
魚類への影響を調べるため、富山県水産試験所にヒメダカに対するフタル酸エステルの急性毒性試験を依頼しました。半数致死濃度(TLm)を求め、フタル酸エステルの魚に対する急性毒性は高くない(飽和溶解度でもTLmに至らなかった)ことを確認しました12)。
●1973年3月
フタル酸エステルの環境・安全性問題により効果的に対処していくため、可塑剤工業会に広報委員会を設置しました。文献集『フタル酸エステル(PAE※)の安全性に関する質問解答集』の編集を開始しました(第1集は1974年4月に発行。第2集は1977年1月に発行しています)。
●1973年4月
環境中にどの程度存在しているのかを明らかにするため、可塑剤工業会分析委員会では全国13水域の海水、河川水での環境モニタリング調査を5カ年の予定で始めました。(結果はP31参照)
●1973年6月
前述の米国で行われたNIEHSとSPEによる会議の論文集を入手し、塩ビ食品衛生協議会と共同で翻訳し発行しました。
また、海外の情報を直接入手するため、可塑剤工業会広報委員会の下村国夫副委員長〈協和発酵工業(株)〉が渡米し、大学、研究機関や行政、メーカーなどを訪問して多くの知見を得ました。中でも、当時すでに米国ではフタル酸エステルの安全性問題は終息に向かっていたという情報が貴重でした。
●1973年7月 魚類への影響を、ヒメダカより大きいニジマスを使って調べるため、東京水産大学(現・東京海洋大学)にDBPの急性毒性試験を依頼しました。半数致死濃度(TLm)は20ppm以上となり、毒性が高くないことを確認しました13)。 |
|
 |
| 1月 |
● |
拡大EC発足
|
|
● |
ベトナム和平協定調印
|
| 5月 |
● |
資本自由化実施、原則100%
|
| 8月 |
● |
金大中事件
|
| 10月 |
● |
第4次中東戦争により第1次石油ショック
|
|
● |
巨人がV9達成 |
| 11月 |
● |
トイレットペーパー、洗剤などの買い占め起こる |
|
● |
江崎玲於奈氏ノーベル賞授賞 |
| 12月 |
● |
公定歩合9%へ引上げ |
| 3月 |
● |
ルバング島で小野田寛郎氏発見
|
| 5月 |
● |
政府、産業用電力料金平均74%の値上げを認可 |
|
● |
堀江謙一氏ヨットで世界一周 |
| 8月 |
● |
ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任しフォード大統領就任 |
|
● |
三菱重工爆破事件 |
| 10月 |
● |
「宇宙戦艦ヤマト」放送開始 |
|
● |
佐藤前首相 、ノーベル平和賞授賞
|
|
● |
巨人の長嶋茂雄選手が引退 |
| 12月 |
● |
田中首相が金脈問題で辞任し三木武夫内閣成立 |
| 2月 |
● |
企業倒産が過去最高となり失業者が100万人を超える
|
|
● |
政府、第一次不況対策を決定
|
| 3月 |
● |
山陽新幹線が全線開通し、東京と博多間が直通運転に
|
| 4月 |
● |
ベトナム戦争終結
|
| 5月 |
● |
エリザベス女王夫妻が来日 |
|
● |
東京で世界石油会議 |
| 6月 |
● |
49年度GNP戦後初のマイナス成長と発表。 |
| 7月 |
● |
「沖縄国際海洋博覧会」開催 |
| 9月 |
● |
天皇、皇后両陛下が初のアメリカ訪問 |
| 11月 |
● |
第1回主要国首脳会議を仏で開催 |
|
● |
宝塚「ベルサイユのバラ」ヒット |
| 12月 |
● |
「石油コンビナート等災害防止法」成立 |
|
|
●1973年9月
貝類を用いて環境への影響を調べるため東海区水産研究所にアサリに対するフタル酸エステルの急性毒性試験を依頼しました。DEHP、DBPの半数致死濃度(TLm)は80ppm以上でアサリは死なず、毒性が高くないことを確認しました。
●1974年7月 魚類への影響をさらに詳細に研究するため、コイを使って体内でのDEHPの分布、代謝、排出を調べる試験を東京水産大学に依頼しました。その結果、魚類の体内では、DEHPは肝臓で容易に代謝され、腸管を経て速やかに(24時間以内には)体外に排出されることを確かめています14)。
●1974年9月
フタル酸エステルの生分解性試験を、複数の工業会会員企業や研究所において化審法※に定められた方法で実施しました。いずれも分解性が良好であることを確認しました。
●1974年12月
食品類似溶液を用い、市販の軟質塩ビ製食品包装フィルムからの可塑剤の溶出試験を環境科学センターに委託しました。食品への溶出、移行の度合いを明らかにしました。
●1974年12月
DEHPの繁殖への影響や慢性毒性、催奇形性などを調べるため、ラットを使った3世代繁殖試験を米国BIO-TEST社に委託しました。
●1975年2月
可塑剤工業会の広報委員会を環境委員会に改称するとともに関西環境委員会を設置しました。 |
|
| ■可塑剤工業会組織図(1975年2月) |
 |
| ※ |
化審法:化学物質の審査および製造等の規則に関する法律
|
|
●試験期間:1975年5月〜1977年1月
●試験機関:米国BIO-TEST社
●投与量:餌中150、500、1,500(ppm)
および対照群
●試験目的
親ラットおよび連続した3世代の新生仔に及ぼすDEHPの影響(発生、成長、繁殖力等)を調べる。世代を越えた長期投与によって、繁殖関係の影響だけでなく慢性毒性や催奇形性、突然変異性なども調べる。 |
|
●試験結果:
| ■繁殖状況については、親ラットおよび第1代目において、1,500ppmの投与群で対照群と比較して交配率の低下が観察されたが、交配、受精率、受胎率、出産率には特筆すべき差は認められなかった。 |
| ■繁殖状況以外では、投与群と対照群の間で、有意な体重の増加あるいは減少が見られたほかは、親ラットおよび3世代の新生仔のすべてにおいて特筆すべき異常は認められなかった。 |
|
| 5年間にわたる環境濃度調査の結果、増加の傾向は示していませんでした。 |
| 【フタル酸エステル(DEHP、DBP)の環境濃度調査】 |
| 調査場所 |
| 都道府県 |
水域名 |
採水地点 |
No. |
| 東京都 |
多摩川 |
二子橋上流 |
1 |
| 二子橋下流 |
2 |
| 千葉県 |
利根川 |
芽吹橋上流 |
3 |
| 芽吹橋下流 |
4 |
| 東京湾 |
富津岬北側 |
5 |
| 富津岬南側 |
6 |
| 愛知県 |
名古屋港 |
潮見橋 |
7 |
| 木曽川 |
東海大橋 |
8 |
| 尾張大橋 |
9 |
| 庄内川 |
新川中橋 |
10 |
| 前田橋 |
11 |
| 三重県 |
鈴鹿川 |
関町 |
12 |
| 庄野橋 |
13 |
| 高岡橋 |
14 |
| 四日市港 |
第1地点 |
15 |
| 第2地点 |
16 |
| 和歌山県 |
紀ノ川 |
田井ノ瀬橋 |
17 |
| 六十谷橋 |
18 |
| 京都府 |
宇治川 |
観月橋 |
19 |
| 大阪府 |
大和川 |
中谷付近 |
20 |
| 府県境 |
21 |
| 大和川大橋 |
22 |
| 岡山県 |
水島海域 |
水島港入口 |
23 |
| 呼松港内 |
24 |
| 六口島付近 |
25 |
| 水島港内 |
26 |
| 高梁川 |
酒津付近 |
27 |
|
|
| ● |
測定期間 |
: |
1973年(昭和48年)〜1977年(昭和52年) |
| ● |
測定回数 |
: |
計8回(1973年春、1974年秋、1975年春+秋、1976年春+秋、1977年春+秋) |
| ● |
測定箇所 |
: |
全国8都府県、13水域、27地点 |
| ● |
調査方法 |
: |
5年間(8回)にわたる定点観測 |
| ● |
調査結果 |
: |
|
| ○ |
延べ206箇所の調査のうち約半数(DBPで113箇所、DEHPで 99箇所)が検出限界(0.001mg/L)以下でした。 |
| ○ |
残りの検出例も、おおむね0.001〜0.004mg/Lとわずかな量であり、5年間にわたって調べても増加の傾向は示さず、むしろ減少していました。 |
 |