
国際的な科学誌『Marine Drugs』(2006年,4巻,290-297ページ)に東北薬科大学の浪越教授のグループによる研究成果として、フタル酸ジブチル(DBP)とフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)が自然界で生物により合成注1)されている可能性が高いとの論文が掲載されました。
浪越教授らの論文によれば、名古屋大学年代測定総合研究センターの協力を得て炭素14注2)を測定したところ、3種の海藻(アオサ・コンブ・ワカメ)から抽出分離して得られたDBPからは、天然物と結論できる量の炭素14が検出され、DEHPについても、生物が産出している可能性がある量の炭素14が検出さました。なお、石油化学由来のDBP、DEHPの炭素14は検出限界以下でありました。 |
注1) | 生物により物質が作られることを生合成といい、作られた物質を天然物と呼ぶ。 | |
注2) | 生物が作る物質の炭素14/炭素12同位体比は一定の値となる(天然存在比)が、生物から取り出すか、生物が死ぬと自然崩壊(半減期5,730年)して、同位体比が減少する。石油から作られた製品(DBP・DEHPの工業合成品)の炭素14の残量は極めて少ないため、現在の技術では検出することができない。 |
これまでも各種フタル酸エステル類が海藻を含む種々の生物から検出されていました。しかし、工業製品が混入した可能性が排除できないとの理由から天然由来であることの確証が得られていませんでした。浪越教授らの論文は、抽出分離したフタル酸エステル中の炭素14を調べるという手法で天然物として存在することを明確にされたのです。
フタル酸エステル類は、これまで人工合成物の環境汚染物質という言われ無きレッテルを貼られ多くの風評被害を受けてきました。最近では公的評価を含め、数々の研究成果によりそれらの誤解も解け、安全性に対する正しい認識がもたれるようになりましたが、この論文の通り自然界で生物により合成されている物質であるということならば、可塑剤工業会のみならず関係業界にとって、大きなニュースであると考えます。 今後さらに研究が進み、フタル酸エステル類が海藻以外の生物でも生合成されているのか、生物が何故それらを必要としているのか、どのようにして生合成しているのかという疑問・課題が解明されることを期待しています。 なお、『Marine Drugs』誌(2006年,4巻,290-297ページ)は、次のURLでご覧いただけます。 |
http://www.mdpi.org/marinedrugs/list06.htm#issue4 |
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