ニュースリリース

厚生労働省の「器具容器包装及びおもちゃ」に関する規格基準改正について

6月11日に開催された厚生労働省の薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において、「器具及び容器包装の規格基準の改正(案)」並びに「おもちゃの規格改正(案)」が審議されました。
本件は、上記食品衛生分科会より諮問を受けた毒性・器具容器包装合同部会において、含有するDEHPとDINPの使用規制が検討・審議され、改正案が作成されて同分科会に答申されたものです。今回開催された食品衛生分科会においては、委員から幾つかの質問はあったものの合同部会の答申案がそのまま承認されました。
承認された答申の内容は、別紙をご参照下さい。

昨年7月改正案が公表されて以後、厚生労働省に対しては、パブリックコメントを始めWTO加盟国からも多くの反対意見が出され、当可塑剤工業会からも最新の動物試験データを提供し、また海外の研究者を招いて科学的見解をもとに同省の関係者と議論し、フタル酸エステルを規制することの問題点を指摘して再検討を強く要望しました。それにも関わらず今回このような措置がなされたことは、科学的根拠からみても疑問があり、当工業会としましては到底納得出来るものではありません。当然のことながら海外からも疑問の声が多く寄せられています。今回の厚生労働省の措置に対して可塑剤の需要家の皆様には、大変ご心配をおかけしていることと存じます。以下、本件に関する補足説明と当工業会の見解を述させて頂きます。

器具容器包装に対するDEHPの使用規制は、平成12年6月に当時の厚生省から出された塩化ビニル製調理用手袋の使用自粛通達に端を発していますが、この通達によって現在では、食品中のDEHPの混入量は大幅に改善されています。今回の規制の対象は、油脂、脂肪性食品を含有する食品の器具容器包装に限定されており、他へ波及するものではありません。
おもちゃに対してはDEHPとDINPについて対象年齢を未就学児とする厳しい使用基準が決められました。欧州連合(EU)の規制は、口の入ることを意図した3歳以下の乳幼児向けおもちゃ(歯がため、おしゃぶり等)を対象にしています。また米国では、消費者製品安全委員会(CPSC)が業界団体に対してフタル酸エステルを含有するおもちゃを流通させないように要請していますが、法的な規制ではありません。

厚生労働省はDEHPの使用規制に踏み切った根拠として、げっ歯類(ラット、マウス)に対する精巣毒性試験(Poon ら)と生殖毒性試験(Lamb ら)の結果をあげています。特にPoonのデータ(耐用一日摂取量(TDI):40ug/kg/day)を採用した場合、暴露量を勘案すればリスクを受けいる可能性が高いというのもです。ところが昨年発表されたラットに対する2世代試験(Schilling ら)の結果では、耐用一日摂取量(TDI)は、1.13mg/kg/dayとなり、Poonの結果より約30倍高い値(安全サイド)が得られています。また今年5月に開催された米国の学会でも、同様な試験験結(Wolfe ら)が発表されています。実際EUにおいては、リスクアセスメントの評価課程において、Poonより  Schillingのデータを採用すべきであるとする国が多数を占めています。 日本においても安全性の評価には、最新の試験結果も考慮すべきではないでしょうか。

一方DINPについては、厚生労働省も危険性が高いと判断している訳でもありません。このことは、同省が作成した合同分科会の資料からも明らかです。おもちゃの用途でDINPを規制した背景には、予防原則の考えがあるものと推察されます。
最近のEUのリスクアセスメント(担当国:フランス)や米国CPSCの見解では、これ以上のリスク管理の必要はなく、人に対する危険性も認められないことを明確に述べています。

当工業会では既にDEHPとDINPについて、霊長類であるマーモセット(キヌザル)を用いた13週間にわたる反復経口投与試験を実施し、その結果、肝臓や腎臓、精巣等に対して発ガン等の異常な症状を生じないことを確認しました。 DEHPについては、さらに生後100日目の幼若マーモセットを用いた65週間の反復経口投与試験を実施して、生殖毒性の確認を行っています。これらの試験は、毒性の発現が動物の種差(げっ歯類と霊長類)によって異なることを証明することを目的にしています。現にその可能性を示唆する研究報告が、幾つか発表されています。
今回の措置について厚生労働省は、発ガン性や内分泌攪乱作用によるもではなく、一般毒性を根拠にしたと説明しています。それだけに上記のSchilling試験や幼若マーモセットの試験は重要視されています。これらの試験によって新たな知見が得られ、人に対する安全性が確認された場合には、厚生労働省に対して今回の措置の見直しを強く要請していく所存です。

今回承認された規格基準は、厚生労働大臣に答申され、法制化の手続きが取られた後、7月中旬頃を目処に告示されるものと思われます。その後1年程度の猶予期間をを設けた後、発効の運びとなります。具体的な規制内容や項目については、Q&Aで対応するとのことです。

このたびの規制措置は、あくまで「器具及び容器包装」と「おもちゃ」の2分野に限って適用されるものであります。従来からこれらの用途には食品衛生法や塩ビ食品衛生協議会のJHP規格に合格する条件で使用されていることと存じますが、今後も関係業界におかれましてはこれらの規格基準を遵守して頂きますようお願いいたします。
また需要家各位におかれましては、厚生労働省も明言しておりますように今回の措置が他の軟質塩ビ製品にまでおよぶものではないことをご理解頂き、DEHP及びDINPを従来通り安心してご使用頂きますようお願い申し上げます。また当工業会と致しましては、今後とも科学的根拠に基づく調査研究や情報の提供などに努めて参ります。
以上

(別紙)
平成14年6月11日
厚生労働省医薬局食品保健部基準課
厚生労働省医薬局食品保健部監視安全課

薬事・食品衛生審議会の答申について
本日、器具及び容器包装並びにおもちゃの規格基準の改正並びに組換えDNA技術応用食品及び添加物の安全性について、薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において審議された結果、以下のとおり薬事・食品衛生審議会より答申を得たので公表します。

1.食品用器具及び容器包装並びにおもちゃの規格基準改正について
(1) 器具及び容器包装の規格基準の改正について
フタル酸エステル類を含有するポリ塩化ビニルに関し、以下の趣旨を器具及び容器包装の規格基準に規定することが適当である。
「油脂、脂肪性食品を含有する食品の器具及び容器包装には、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)を含有するポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を使用してはならない。ただし、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)が溶出又は浸出して食品に混和するおそれのない場合はこの限りでない。」
(2) おもちゃの規格基準の改正について
フタル酸エステル類を含有するポリ塩化ビニルに関し、以下の趣旨におもちゃの規格基準に規定することが適当である。
「合成樹脂製のもので、乳幼児が口に接触することをその本質とするおもちゃにはフタル酸ジ(2-エチルヘキシル)あるいはフタル酸ジイソノニルを含有するポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を使用してはならない。
上記以外の合成樹脂製おもちゃには、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)を含有するポリ塩化ビニルを主成分とする合成樹脂を使用してはならない。」
厚生労働省では、本答申を受け、今後、食品用器具及び容器包装については、食品衛生法第10条第1項、おもちゃについては、食品衛生法第29条において準用する同法第7条1項の規定に基づく告示(食品、添加剤等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)の改正を行う予定である。