ニュースリリース

欧州におけるCMR物質の取り扱いに関するEU指令について (一般大衆へのDEHP、DBP販売制限の問題)

 EUでは、CMR物質(発ガン性、変異原性、生殖毒性があるとされる物質)の取り扱いに関するEU指令1)が2003年5月に公布され、2004年末にも加盟各国で実施される見込みです。 対象はCMR物質2)に分類された約60の化学物質です。この中にDEHPとDBPが含まれています。この2物質は、発ガン性、変異原性では問題ないものの、ラットとマウスの実験で1000mg/体重kg以下での生殖毒性が認められることからR物質に分類されました。
このEU指令では、対象物質の一般大衆(一般消費者)への販売が制限されることになっており、このことが全面的な販売禁止という印象を与えています。
この指令の内容はEU域外のわれわれにはわかり難いものです。この情報で認識しておかねばならないことは、以下の二点です。

 

(1) 域内の法律であって、域外に及ぶものではありません。
(2) CMR物質の全面的販売を禁止したものではありません。
あくまで一般大衆への直接販売を制限したもので、通常の取引(加工メーカーへの販売)を規制したものではありません。また、その中で対象となるのは化学物質そのもの(substance)とEUで定義された調剤(preparation、2種以上の混合物)であって、それ以外の製品に及ぶものではありません。
また調剤であっても、専門家への販売は禁止されていません。

 

対象となる製品で現在例示できるものは以下のようなものです。
規制対象外加工されている製品
壁紙、床材、電線被覆、コンパウンド等のいわゆる加工製品
規制対象調剤3)(単に混合したもの)
インク、塗料、化粧品などが考えられます。

 

1)EU指令
対応するEU指令は以下の2つの修正指令です。
76/769/EEC 「特定の危険物・薬剤の流通と使用に関する指令」の23次及び25次改訂。((2003/34/EC、2003/36/EC)
23次改訂ではCMR物質の一般大衆への販売を制限しており、25種類の化学物質を対象にしています。25次改訂では、41種類の化学物質を指定しています。そして、2004年6月までに加盟国に法令を作成し、12月25日よりその法律を発効するように求めています。
この25次改訂に添付された生殖毒性物質カテゴリー2のリスト追加物質にDEHP 、DBPが記載されています。
2)CMR物質
CMR物質:C 発がん性、M 変異原性、R 生殖毒性今回のEU指令ではこれらのカテゴリーのクラス1、2と分類されたものが対象になっています。
3)調剤
1999/45/EEC(危険な調剤の分類、表示、包装に関するEU指令)によれば
「2種以上の物質から構成される混合物又は溶液」となっています。

 

参考 化学物質の市場取引と使用に関する指令の第23改正に関するEU官報
http://europa.eu.int/eur-lex/en/dat2003/I_156/I_15620030625en00140016.pdf
同第25改正に関するEU官報
http://europa.eu.int/eur-lex/en/dat2003/I_156/I_15620030625en00260030.pdf

 

DEHPの安全性について
DEHPに関してはこれまでさまざまな研究が行なわれてきており、安全性が確認されてきています。そして生殖毒性に対する懸念が現在残っている唯一の問題です。

 

(1)発がん性
→2000年IARCで発ガン性の無いカテゴリー3へ変更
:解決済
(2)環境ホルモン問題
→環境省が明確な内分泌撹乱の疑いなしと報告
:解決済
(3)精巣毒性
→霊長類での試験では精巣に影響ないことを可塑剤工業会で確認・公表
:同試験結果の論文化、学術的評価待ちの段階

 

 これまで、化学物質に対する安全性の試験データはラット、マウス等のげっ歯類に基づいてきました。従って、当初DEHPに関する毒性データも、ほとんどげっ歯類に基づくものであり、これにより発がん性、精巣毒性があるとされてきました。 最近では、必ずしもげっ歯類のデータが霊長類(人や猿)に当てはまらないという例が多々あることがわかってきました。 その良い例がこのDEHPであるようです。 近年、発がん性、精巣毒性では明らかにげっ歯類と霊長類では種差が認められています。

可塑剤工業会では胎児への影響を含めたいわゆる生殖毒性にも種差が存在するとの考えから、それを確認するための試験を既に着手しています。

以上のような、研究の積み重ねの一方で、これまで、数十年にわたってDEHPを使用した製品が用いられてきた実績があります。明確にDEHPによって健康被害があった事例は1件も確認されていません。
これまでのDEHPに対しての不安は、(1)明らかに間違った推測に基づくもの(ベトナム戦争時のショック肺)、(2)げっ歯類の試験結果に基づくもの、(3)極微量な化学物質を検出できるようになったためいろいろな場面でDEHPが検出できるようになったこと、などに基づいています。

可塑剤工業会は、日米欧の種々のリスクアセスメント結果から考えて、現行の使用状況において、何ら使用を制限する根拠は無いと考えており、またその働きかけを行なってきています。

以上